小説「野火」を読んで
大岡昇平の野火の文庫を読んだ。
全然知らなかったけど、昨年の夏に映画がやっていたようだ。
市川崑が監督した映画もある。
アマゾンプライムビデオで、戦争映画を探していた時に、この顔のインパクトから興味を持ったのがきっかけだった。
映像で見るとかなりどぎつそうな内容なので、小心者の自分としてはまずは文章から入ろうと思って文庫を購入した。
私は、良い小説は読んでいるときにあたかもそのシーンが目の前にあるかのようにイメージできるような、情感豊かな描写がされている小説が好きなわけだが、この小説の情景描写はそんなきれいごとでは済まないほど、鬼気迫る内容であった。
酷暑の中、行き場を失った田村一等兵の心情とは裏腹に、どこまでも突き抜けるような青い空と、深い緑、自然の美しさと、おかれている状況の悲惨さが泣けるほどの対比を生み出している。
そして、生きるために人の肉を食べざるをえなかった状況と、その心理描写の表現、最初猿の肉だと松永に言われて田村はむさぼり食うわけだが、読んでいる自分からすると人肉だということがわかるわけで、ただ田村も薄々気づいてはいるものの、食べずにはいられないという、そういった心理状況が透けて見えるような、ものすごく研ぎ澄まされた文章表現だと思う。
レイテ島の最後クライマックスとなる、松永を打とうとするところなんかは、目の前で繰り広げられているかのようなリアリティだ。
文章で読んでこれだけのリアリティなものを、映画で映像表現として見た時に、直視することに耐えられるのだろうか?
というか、小説に引けを取らないクオリティの作品なのだろうか?
2015年版にはレイテに実際に戦争に行った人たちのインタビューも収録されているようなのでいつか見てみたいと思う。
祖父は自分が生まれた時にはすでに亡くなっていて、祖母ももう10年くらい前にはなくなってしまっているので、戦争をリアルに体験している人は身内にはすでにいなくなっているが、父は祖父や祖母から戦争体験についていろいろ聞いているはずなので、今のうちにその辺の話をじっくり聞いておきたい。
最近、父も70代になってめっきり老けてきたので、元気なうちにちゃんと話を聞いておかないとなと思う今日この頃である。